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2011年08月09日(火)更新

ドライエージングビーフを極める



「牛肉は少し寝かせたほうがいい」


よく聞く話ではあるがいったいどういうことなのか?

と畜後は死後硬直により肉は硬くなるので
血液、体液からくる生臭い香りがします。

数日から1週間もねかせれば肉質は柔らかくなり
風味ある牛肉になるというわけです。

この段階を「熟成」と呼び、商品名にも熟成を入れたりしますが
(例えば、熟成近江牛とか)

私がこのブログで度々書いているのは「ねかせる=熟成」ではなく
「エージング=熟成」のことで、今日はそのこと(熟成肉)について
詳しく書いてみたいと思います。

熟成には、ウェットエージングとドライエージングの2通りがあります。

日本では時間と場所をとらないウェットエージングが主流だが
果たしてこれを熟成肉と呼ぶのかは疑問だ。

というのも、牛肉の流通は枝肉よりも真空パックにしたブロック肉が主流だ。
真空パックは枝肉を捌いた状態のナマではないので、日持ちするという利点がある。

ところが、いくら真空パックで持ちがいいからといっても、
日増しに商品は劣化し賞味期限前になるとドリップが大量発生して、
それが肉や脂に浸透し味が損なわれる。


年配のお客さんがこんなことをよく言います。


「むかしの肉はうまかったのに、いまの肉はうまくない」


まさしく真空パックでの流通が主流になったことが原因でしょう。

むかしの肉屋は、店内に大きな枝肉を吊るしてオヤジが捌きをしていたものです。

肉を買いに来た近所の客がそれを見ながら、分かりもしないのに
大将、ええ肉はいったなぁ、なんて光景が当たり前でした。

いまは食品衛生上の問題もあり、年々そういった光景は見られなくなり、
それと同時に、捌きをする職人も減ってきたのが現状です。
時代の流れというものでしょうか。

さて、私が行っているドライエージングは、肉の塊(枝肉状態)を冷蔵庫に置き
空気に触れさせながら熟成させる方法です。

それにより、肉の水分がとび、歩留まりは悪くなるが、肉質は柔らかくなり
まさしく、むかし食べた懐かしい味が再現できるのです。

しかし、言うのは簡単だがこれがむずかしい。


 



冒頭1枚目の写真は、枝肉のままドライエージングしているのだが、
2枚目の写真は、部位別にドライエージングしている。

棚の1段目は熟成10日目のリブロースだ。
2段目は、すでに5週目に入ったのでリブの断面はカビがビッシリ生えている。

 



カビというと、あまり気持ちのよいものではないが
このようにキレイにカビが生えるとわくわくするのが熟成肉だ。
(カビをキレイと表現するのは微妙だが・・・)

においも独特で、人間には無害の最近ラクトン(乳製品などに含まれる)という
甘い香気物質をつくる。

酸素がないと起こらないこの変化はドライエージングの最大の特徴と言えます。

簡単に言うと、むかしの肉屋のにおいです。
(分かる人には分かると思うが)


過去にも同様のことを書いてはいるが
少しおさらいしてみると、Dry Aging(ドライエージング)とは乾燥熟成のことで、

その名の通り乾燥状態を保管庫内に維持し熟成させるという意味だ。

重要なのは、「温度」 「湿度」 「風」 この3つ。


温度は0度に設定し、極力冷蔵庫は開け閉めしない。


本格的にドライエージングに取り組もうとすれば
結構な設備資金が必要となる。

 


外部の空気を入れて内部の空気は出さないように設計している。

 



次に湿度管理だ。
80~90%に設定して肉と菌の状態をみながら調整していく。
これを見誤ると、熟成ではなく肉は腐ってしまうのだ。

ちなみに、中途半端な知識と設備で熟成肉にチャレンジすると
ほとんどの場合が腐敗してしまう。
これを熟成と勘違いしている方もいるので注意が必要だ。

 



最後に、風だ。
温度と湿度を考慮し、まんべんなく風が行き渡るよう庫内の隅々にファンを設置している。


 




ドライエージングに適している牛肉は、私の経験からいくと和牛ならA2、A3といった
グレードの低い、どちらかといえば赤身の肉が適している。
経産牛なんか最高だ。

やったことはないがホルスもいいと思う。

そもそもエージングすると歩留まりが悪くなるどころか、
へたすれば半分ぐらいになってしまうので、グレードの高い肉は採算があわないだろう。

やるとすれば、肉屋やオーナーシェフが趣味でやるか、
よほどセレブな顧客を抱えている場合だけだろう。

ただ、1ヵ月も熟成させると、筋肉繊維が崩壊して柔らかくなるので
サシの強い肉だと、柔らかくなりすぎて肉の味がしなくなる可能性がある。

実際にA5クラスの肉をエージングしたことがないのであくまでも推測だが。


写真の肉は、但馬系の純粋近江牛で熟成期間は40日。
心斎橋のそむりえ亭樋口さんにお願いして調理してもらった。

何も言わずに送りつけたのだが、40分かけてじっくりローストしたとのこと。
さすが樋口さんだ。

ワインのみならず肉にも精通している。

熟成肉は水分がとんでいるので火入れが肝となる。
つまりは、火の通りが遅いのだ。

肉質は、予想以上に驚くほど柔らかくなっていた。
ジューシーが確認できたのは、時間の経過とともに
肉の表面に付着した菌と微生物のチカラで収縮した繊維が
ある程度伸びたために起こるものだと推測できる。

とにもかくにも、熟成肉は奥が深い。


そしてなによりも美味である。
 


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2011年08月06日(土)更新

Dry AGING 乾燥熟成の魅力



熟成をエージングといいますが、
エージングには「ウェットエージング」と「ドライエージング」の
2通りがあります。

日本では、部位別に真空パックされた、いわゆる部分肉流通が主流のため
「ウェットエージング」の比率が高い。

しかし、牛肉は真空することにより日持ちはするが
欠点としてドリップが発生し、それが脂に浸透し味が劣化する。

だから私の見解としては、
ウェットエージングは肉の旨みを損なうことになるという考えだ。

私が行っているのは、DAB(ドライエージング)で
骨付きの肉を乾燥熟成させる方法だ。

現在、自分ところの冷蔵庫と他所様の冷蔵庫をお借りして
実験的に進めている最中である。

どちらの冷蔵庫で熟成をかけても一長一短で
失敗と成功の繰り返しだ。

おそらくだが、DABに向く肉とそうでない肉が
あるように思う。

このあたりの見極めも結構重要だったりする。

A4でもA5でも熟成には問題なという方もいるが、
私の経験では、できる限りサシは少ないほうがうまくいくケースが多い。

サシだらけの肉をDABにしても
柔らかくなりすぎて肉の味がしなくなる。

写真の上段は、DAB10日目

中段は、40日目でそろそろ仕上がる頃だ。

マスク越しでも、熟成香が確認できた。

 ここまでは予定通りに進んでいるのだが
最終的においしくなければ売り物にはならない。

結局、いくら手間暇かけたところで
おいしくなければ評価されないということだ。

特にDABは焼き方にコツがある。
焼肉のように短時間で焼きあげるのではなく

弱火でじっくり40分ぐらいローストすると
熟成肉の旨さが最大限に引き出される。

手間暇かけた熟成肉はハレの日の牛肉として
位置づけたい。
 


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2011年08月05日(金)更新

歓喜のドライエージングビーフ

前回の続きから(→クリック


6月28日から熟成させた経産牛を東京の知人宅で焼いてみた。

DAB(ドライエージングビーフ)が食べられるとあって
30人以上が集まった。

特にDABの本場でもある、アメリカ人のマイクはテンションが高かった。
久しぶりにこんなにうまいDABを食べたと喜んでもらった。

ところでこの肉は、販売するために熟成していたのではなく
あくまでも私が楽しむためにDABにしたものだった。

どうせなら、いろんな方の意見や反応もみたかったので
前日にロース1本分を知人宅へ送ったというわけだ。




焼く前に少し生で食べてみたが、ナッツのような香りがして赤身の旨さが引き立っていた。

リブを塊のまま、約30分程度ローストした。
適度な噛みごたえがあり、あちらこちらから驚きの声があがった。

用意した牛肉は、藤井牧場さんの近江長寿牛で、
2産している経産牛だ。

通常なら硬くてジャガード(無数の針で突く道具)を何度も入れて
さらに肉の繊維を切るように隠し包丁を入れなければ柔らかくならない。

しかし、DABにすると驚くほど柔らかくなるのだ。

5週経過すると、筋肉線維が崩壊してタンパク質と水分が結合し、
肉の保水が増す。

さらに、タンパク質が分解され、脂肪酸のバランスが変化する。

この時点での匂いは、あま~い香りがして
そろそろ仕上がりだという目安にもなる。

DABにすると脂肪の質が変化するので融点が低くなる。

ただ、赤身の肉を柔らかくするためだけが目的ではなく
よりおいしくするために行うのがDABなのだ。

それが消費者に受け入れられるかどうかはまた別問題で、
要はブランディング次第ということになる。




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2011年08月02日(火)更新

経産牛をドライエージングしてみた



6月28日から熟成させていた経産牛。

表面はビーフジャーキーのような色合いになり
指で押すとカチカチに乾いていて硬くなっていた。

ドライエージングにより水分は約20%程度抜けていて、
熟成前のずっしりとした重みは感じなくなっていた。

写真は、乾ききった表面を削ぎ落とした後の写真だが
肉質は粘りがあり、フレーバーな香りがなんともいえない。

熟成肉に関しては、熟成過程においてこれが正解というものはなく
勉強すればするほど奥が深い。

温度、湿度、風が重要なのは分かるが、
科学的知識と資金力、そして偶然の重なりが明暗を分けるように思う。

冷蔵庫も空冷式よりも水冷式のほうが菌が付着しやすいし、
とにかく試行錯誤で作りあげていくのが熟成肉だ。

カビだらけの肉をみたとき、ほんまに食べられるんかいな・・・
と、一瞬引いてしまったこともある。

少し削っては生で食べ、香りのチェックをしながらお腹の心配をし、
さらに焼いては一喜一憂し、そんなことの繰り返しである。

私が肉屋に入りたての頃、冷蔵庫にはカビの生えた枝肉が
たくさん吊るしてあった。

常時2~3頭は在庫していたので、変色の早いバラのカッパなんかは
霜のような白カビが生えていた。

冷蔵庫内は、なんともいえない匂いが充満し
それが肉屋の匂いとして強く記憶に残っている。

いつからか、そういった匂いがしなくなったのは
先にも書いたが、冷蔵庫の問題かも知れない。

記憶を遡りながら科学的に検証すると思わぬ発見があったりして
熟成肉は奥が深くてまさしく温故知新の知恵である。





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2011年07月21日(木)更新

やまけんさんの国産丸と藤井さんの近江長寿牛



 

本日は、やまけんさんの国産丸を食べる会が「きたやま南山」さんで開催される。


昨日、南山さんが「いわて短角和牛」の放射能検査を依頼した結果、
「セシウムは検出されず」という吉報が届いた。


もちろん、久慈市山形町で育った「やまけん」さんの「国産丸」も、
「セシウム検出されず」だった。
 

ところで、国産丸と藤井牧場さんの近江長寿牛を
当店の熟成庫で約5週熟成をしていたのだが
昨日、南山の楠本さんと一足お先に試食してみた。


欲をいえば、あと2~3週熟成させたいところだが、
本日参加のみなさまには、おいしく召し上がっていただければ幸いです。


ここ最近、熟成肉を販売する店が増えてきた。


やり方は人それぞれだが、
これが正解というものはないと思う。


どうなれば「うまく熟成できた」と言えるのか・・・


それさえも人によっては見解が違う。


結局は、おいしくなるように熟成させているのだから
食べた人にうまいと感じていただけないと意味がない。


熟成は工程も大事だが、タイミングやバランスなど
あらかじめ計算できない要素が多い。


さて、南山さんの料理人たちはどのように料理してくれるのか。


楽しみだー!



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