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2012年03月29日(木)更新

生産者と消費者の架け橋に



10年前、はじめて近江牛の生産農家さんを訪ねた。
 

消費者のみなさんは、生産者と販売者、
つまり農家と肉屋は密接な関係にあると思われているようだが
実際は、顔も知らないというのがホントのところだ。

 

自分が販売している牛肉が、どこのだれが育てたものなのか、
そんなことを知らないで、安心ですよ、安全ですよ、おいしいですから買ってください、
ってなんかおかしな感じがしますよね。

 

でも、これが現状なのです。
 

逆に、農家の人たちは、自分たちが飼養した牛さんの肉が
どんな味なのかを知らないまま育てているんです。

 

私は、農家の人たちに、自分たちの育てた牛さんの肉が、
消費者の方たちにどのような評価を受けているのか、
どうしたらもっとおいしくなるのか、そんなことを伝えたいと思いました。

 

とはいっても、私なんかが声を大にしたところで、聞き入れてもらえるはずもなく
かといって、じっとしている性分でもないので、何軒かの農家さんの私の想いを伝えました。

 

消費者が知る牛肉の情報は、一方通行のものが多く、
味そのものの楽しみ方ではなくサシによる見栄えで完結している。

 

日本の畜産は、ここ10年ほどで、格付け評価が厳しくなり、農家のみなさんは
サシを入れることに懸命になりはじめた。

 

結果として不健康な牛さんの肉が市場に出回り、
サシ重視の取引が多くなっていった。

そのことを知っている人は、畜産業界(特に精肉業者)の方でもあまりいない。

 

私の取り組みは、素材からやることで、まず、農家のみなさんと親しくなり、頻繁に牛舎に通った。
飼料のこと、血統のこと、病気のこと、牛さんに関することは些細なことでも気にして学んだ。

 

次第に、私は農家のみなさんと牛さんのことを対等に話せるだけの知識が身に付いた。
農家のみなさんも、私に牛さんのことを相談してくれたりもした。

 

私の強みは、生産者のことも消費者のことも、両方知っていることだ。
 

だからこそ、両者の架け橋になって、牛肉の文化を高めることが
自分に課せられた使命だと思っている。

 

サシ重視でずっと歩んできた日本の牛肉だが、
ここ最近は、赤身肉がブームになりはじめている。

健康志向やダイエットブームなどが影響しているのだと思うが、
私に言わせれば赤身肉のおいしさたるもの、もっと奥深いのだ。

 

その1つが、ドライエイジングによる熟成肉だ。
当社では、専用の冷蔵庫で40日間熟成させるのだが、
これが本当に旨くて感動ものなのだ。

主に経産牛を骨付きのまま熟成させるのだが、
柔らかくて深みのある味わいに生まれ変わる。

 

昔は、牛肉といえば高価なもので「ハレの日」のご馳走だった。
しかし、現在では、和牛の数が多すぎて贅沢感がかなり薄れている。

 

気軽にテーブルミートとしての牛肉もいいのだが、特別な日の贅沢な牛肉も
それはそれで楽しいと思うのだがいかがでしょうか。

 

そして、ワインや日本酒とのマリアージュも特別な日に楽しんでいただきたい。