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2007年11月22日(木)更新

短角牛の魅力をとことん味わう会

食肉業界において最大の事件といえば、ご周知のとおりBSEである。
その被害は計り知れず倒産、廃業したりやむなく業務縮小に追い込まれたり
ここ数年で仲間が去っていく光景を目の当たりにしてきた。

京都の北山通りといえばおしゃれなブテックやレストランが立ち並び
デートスポットとしても有名である。
その通り沿いに「焼肉料理屋 南山」というお店がある。

南山

↑写真の建物の横に宴会に対応している「南山はなれ」がある。
南山はなれはBSE以来閉めていた店を、1頭仕入れや短角牛の導入などで
経営回復し昨年7月に大改装して「南山はなれ」という呼称で現在、大成功を
収めている店舗である。

hanare
↑客だまりから見たところ。左側が座敷で右側に調理場がある。

牛の1頭仕入れを謳い文句にしている焼肉店をよく見かけるが
1頭仕入れて、自店で使いこなせない部位は業者に引き取らせているケースが
あるので、ボクなんかはメニューを見て判断する。

さて、昨今の牛肉事情は枝肉から部分肉による流通形態が主流となっている。
いろいろな理由があるが、1頭仕れても使いこなせないという現状と職人不足、
教育といった諸問題があげられる。

では、南山はどうなのか?
驚くことに3種類の国産牛を丸ごと1頭仕入れしているが
すべてを使い切っているとのこと。これはすばらしい。

楠本社長が選んだ3種類とは、近江牛、八千代黒牛
そして、生産量の少ない「いわて短角牛」だった。
いまやいけいけドンドンの牛心、伊藤社長でさえ断念した「短角牛」を
知識、経験の少ない楠本社長がはたして使いこなせるのか?
いや、それよりも安定して流通させられるのか?
恐らく周りはヒヤヒヤしたに違いない。

血のにじむような努力をされたことは安易に察することができるが
結果、岩手県を巻き込んでの成果をあげておられる。
ボクにはとうてい真似できない。本当にすばらしい。

いまでは短角牛を語らせれば右に出るものがいないぐらいに
知識豊富であることは言うまでもない。

そして、2007年11月20日 「南山 はなれ」で
「いわて短角牛」の魅力をとことん味わう会が盛大に開催された。

楠本社長の人徳に多くの人たちが魅了されて、岩手県から農林水産課の方々や
短角牛関係者をはじめ、そうそうたる顔ぶれが揃った。すごいの一言。
楠本社長の行動力と女性ならではの視点、とことん学ぶという姿勢にひっぱられた
感じがする。じつに見事である。

さて、せっかくご招待いただきましたので、当日の様子をボクなりに感想も含めて
楠本社長にブログを通してお伝えさせていただきます。

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厨房を公開するという大胆さは楠本社長らしい。
参加者が江口調理長を質問攻めにするシーンは
少々の緊張もあったようだが受け答えがしっかりとしていて
昨年、当店に来られた頃と比べても成長のあとが伺える。
江口さんは素直なのでまだまだ伸びますね。

生産者が語る短角牛

販売側としてはあくまでも1頭買い(販売)を基本としたいだろうが
外食産業(飲食店)がどこまで対応できるのか少々疑問。
例えばフレンチやイタリアンでは使用部位がある程度限定されるだろうし。
使う側は「生産量に見合った販売量」を崩さないでほしい。

たたきととろろユッケ

↑●短角牛の前菜 たたきととろろユッケ
「佐藤安美さんの31ヶ月齢のメス」
31ヶ月飼いこんでいるので肉質的には柔らかく味も良かったです。
盛り付けや器も上品なので前菜としては満足でした。
ただ見栄えはどうしても和牛に劣るがこれは仕方がない。
盛り付けや器でカバー。

煮込み

↑●短角牛の煮込み
長澤農園さんの大根はおいしかったが、スネ肉がパサパサすぎる。
脂質がないので納得できるが、スジを引かずに脂ごと煮込むとか
なにかもうひと工夫必要では。

牛刺し2種(モモ)

↑●牛肉の食べ比べ 牛刺し2種(モモ)
・33ヶ月齢の近江牛(去勢)VS畠山利勝さんの31ヶ月齢短角牛(メス)
近江牛、短角牛ともにあっさりとした食感。
近江牛のほうは口に運ぶ瞬間、肉の香りを感じた。
味はどちらとも淡白だが美味。

19ヶ月齢

↑●岩手生まれ秋田育ちの19ヶ月齢短角牛(去勢)
あっさりとした食感で短角らしさを感じた。
見た目の地味さは仕方がないので、ヘルシーさをPRしていけば
ファンがつくと思う。(特に年配者や女性)

31ヶ月齢

↑●佐藤安美さんの31ヶ月齢短角牛(メス)
柔らかくておいしかったのですが、これならわざわざ短角牛にこだわる必要がなく
八千代のF1で十分だと思う。
口に運ぶ瞬間、微かだが草の臭いがした。
短角牛らしさが感じられず、19ヶ月齢のほうが短角牛らしさを感じた。

近江牛

↑●全国但馬牛品評会で優秀賞をとった33か月齢の近江牛(去勢)
但馬の血統なので去勢でもあっさりとしていた。
これぐらいのレベルの枝肉を常時確保できれば最高。
ただ、但馬産の近江牛となるとお客さんに説明がむつかしく
勘違いされる危険性も否めないのでそのあたりは十分に注意されて
PRしたほうがよろしいかと。これからは、近江牛というブランド力よりも
だれが作ったのか、という生産者力が差別化につながるかと思われます。

短角モモバラ

↑●畠山さんの31ヶ月齢短角牛(メス)
↑●佐藤安美さんの31ヶ月齢短角牛(メス)

塩とたれで食べたが、どちらとも食感が良くおいしかったです。
ボク的にはロースを塩でいただくほうが好きです。

楠本社長と松澤先生

楠本社長の“人徳”ですばらしい面々が顔を揃えたわけですが
ボクのほうこそ良い勉強をさせていただき感謝です。
肉屋の大先輩でもある松澤先生の豊富な知識はスゴいの一言ですね。

牛心 伊藤社長

シャイな牛心、伊藤社長でしたが、この人も牛が好きなんですね。
随所から“こだわり”を感じることができ、それは単なるこだわりではなく
「人生」という大きなものを感じることができました。

さて南山では現在、近江牛、交雑牛、短角牛の3種を産直仕入れされているわけですが
最終的にはどんなすばらしい銘柄牛よりも、心やさしい生産者が育てた牛で選び
それがお客さんとの“信頼”につながるのではないかと思っています。

楠本社長が食べておいしいと感じる肉が、お客さんにとっての「ブランド肉」
ではないでしょうか。
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